「1学期はできていたのに」——中学英語が2学期に崩れる、たったひとつの原因

英語の動詞に混乱していた中学生が、フローチャートで整理できるようになるイラスト

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「1学期はできていたのに」

中学生の英語について、保護者の方から一番よく聞く言葉です。

最初のテストは80点、90点だった。単語も覚えていたし、本人もそれなりに自信を持っていた。ところが、いつからか点が下がりはじめる。2年生になる頃には、英語だけが手のつけられない教科になっている。

そして、こう言われます。「サボっているんじゃないの」「最初はできていたんだから、やればできるはずでしょう」。

でも、これは努力の量の問題ではありません。最初のテストで点が取れた方法が、途中から通用しなくなるだけです。しかも、その「方法」を選んだのは、子どもなりに正しい判断でした。

順番に説明します。

英語ができないのは、英語のせいではありません

意外に聞こえるかもしれませんが、研究の世界ではもう30年ほど前から、こう言われています。

外国語でつまずく子は、実はその前から、日本語のほうにも同じ弱さを抱えている。

長年この分野を研究してきたグループは、外国語学習の困難は母語の学習の困難から生まれると考えました。とくに「音を扱う力」の弱さが、その中心にあるという見方です。実際、外国語が得意な学習者と苦手な学習者を比べると、母語の力や音を扱う力にはっきりした差が出ることが、何度も確認されています。

つまり、中学で急に問題が起きたのではありません。それまで見えていなかったものが、英語という形で表に出てきただけです。

日本語なら読める。でも英語だけ読めない

もうひとつ、はっきりした事実があります。

日本語と英語の両方の環境で育った、ある人の記録が研究に残っています。この人は日本語であれば、ひらがなも漢字も何の問題もなく読めました。その読む力は、同年代の日本人の多くを上回るほどでした。

ところが、英語だけがどうしても読めなかったのです。

同じ人、同じ頭です。文字の種類が変わっただけで、読めたり読めなくなったりする。

数字でも同じことが言えます。日本の小学2年生から6年生、およそ500人を調べた研究では、同学年の子に比べて読むことがはっきり苦手だった子の割合は、

  • ひらがな 0.2%
  • カタカナ 1.4%
  • 漢字 6.9%

でした。一方、英語を母語とする国では、読みの困難がある子はおよそ 10〜12% とされています。

読むことが苦手な子の割合は、文字の種類でこれだけ変わる。ひらがな0.2%、カタカナ1.4%、漢字6.9%、英語(英語圏の調査)10〜12%の棒グラフ

なぜこれほど違うのか。文字と音の対応が、どれくらい素直かの差です。

ひらがなは、「あ」と書いてあれば必ず「あ」と読みます。例外はありません。ところが英語は違います。同じ「a」でも、cat、name、water、about でそれぞれ音が変わる。逆に、同じ「うー」に近い音を書くのに、oo、u、ew、ough といくつも書き方がある。文字と音が、何対何にもなってしまうのです。

日本の子どもは、世界でいちばん素直な文字で6年間を過ごしてから、中学1年生で、世界でいちばんややこしい文字にいきなり移されます。

「スペルが覚えられない」の正体は、ここです。

英単語が「ただの音の羅列」になってしまう子

単語が覚えられない、という話をもう少し掘ります。

研究では、こんなテストが使われます。「ネプリタン」「ブロファイマル」——意味のない、でたらめな音の並びを聞いて、そのまま言い返してもらう。ただそれだけのテストです。

このテストの成績が良い子ほど、あとで英単語をたくさん覚えられる。フィンランドの子どもでも、香港の中学1年生でも、同じ結果が出ました。

なぜかというと、新しい英単語は、はじめて出会った瞬間には意味のない音の並びと同じだからです。「アップル」と聞いても、その音を数秒間そのまま頭に留めておけなければ、意味と結びつけることも、文字と結びつけることもできません。

そしてこの「音を短い間そのまま保っておく力」は、読むことが苦手な子や、ことばの発達に困難がある子で弱いことが、多くの研究で報告されています。

だからこの子たちにとって、英単語を覚えるという作業は、毎回まっさらな状態から、意味のない音を丸ごと飲み込む作業になります。何度やっても抜けていくのは、当然のことです。

ここからが本題:ルールで覚える脳と、丸暗記で覚える脳

さて、いよいよ核心です。

人が何かを覚えるとき、脳には大きく2つの仕組みがあると考えられています。

ひとつは、事実をそのまま貯める仕組み。「りんごは apple」「昨日は yesterday」のように、ひとつずつ覚えていくやり方です。頭の中の辞書、と考えるとわかりやすいと思います。

もうひとつは、規則を身につけて自動で使えるようにする仕組み。自転車の乗り方のように、いちいち考えなくても手が動く、あの覚え方です。ことばの文法は、本来こちらで身につきます。

ここで、非常に重要な研究があります。

文法をどれだけ理解できているかを調べたところ、定型発達の子どもでは「規則を自動化する仕組み」の強さだけが、文法の力と結びついていました。ところが、ことばの発達に困難のある子どもでは、結びついていたのは「事実をそのまま貯める仕組み」のほうだけだったのです。

研究者はこれを、うまく働きにくい仕組みを、もう一方の仕組みが肩代わりしていると説明しています。実際、この肩代わりは、ことばの困難だけでなく、読みの困難や自閉スペクトラム症でも広く起きていると考えられていて、場合によっては丸暗記の力そのものが平均より強いことすらあると報告されています。

ここで、あの言葉に戻ります。

「I = am」

多くの子が、これを呪文のように覚えます。そして中学1年生の最初のテストでは、それで点が取れてしまう。

これは、サボっていたのではありません。規則を自動で身につける回路が使いにくいぶんを、丸暗記の回路で埋めた結果です。その子なりに、いちばん確実な方法を選んでいた。よくやっていた、と言っていい。

ただ、肩代わりには限界があります。覚える項目が増えすぎると、崩れます。

(なお、この2つの仕組みの説明については、測り方の信頼性をめぐって異論を唱える研究者もいます。決着のついた話ではなく、有力な考え方のひとつとして受け取ってください。)

そして、狙い撃ちされるのが「動詞」です

ここまで来ると、なぜ動詞なのかが見えてきます。

英語を母語とする子どもたちの研究で、ことばの発達に困難があるかどうかを見分ける目印として長く注目されてきた項目があります。それが、

  • 三人称単数の -s(He plays
  • 過去形の -ed(played
  • be動詞(am / is / are)
  • do / does

の4つでした。この4つは、困難のある子では正しく使えるようになるまでに、非常に長い時間がかかることがわかっています。

見てください。中学1年から2年で習うものが、そのまま並んでいます。

英語を母語として、毎日英語を浴びて育った子どもでさえ、最後まで残るのがこの4つです。日本の中学生が、週に数時間の授業でここを越えられなかったとして、それは何ら不思議なことではありません。

(この研究は英語を母語とする子を対象にしたもので、日本の英語学習者を直接調べたものではありません。ただ、つまずく場所が同じであることは、現場で見ていて疑いようがありません。)

丸暗記が破綻する日

では、なぜ2学期なのか。

動詞の形は、こう分岐していきます。

be動詞
主語が I / You・複数 / それ以外(He, She など)の3通り。
それぞれに、肯定文・疑問文・否定文の3通り。
9パターン

一般動詞
主語が三人称単数か、そうでないかの2通り。
それぞれに、肯定文・疑問文・否定文の3通り。
6パターン

合わせて、15パターン

しかも子どもは、目の前の文がどちらの動詞の文なのかを、まず自分で見分けなければいけません。見分けたうえで、主語を確認して、文の種類を確認して、やっと形が決まる。

「I = am」という1つの事実を覚えるのと、15の分岐を1つずつ覚えるのとでは、必要な量がまったく違います。丸暗記でここを越えようとすれば、どこかで必ず在庫が尽きます。

「1学期はできていたのに」の正体は、これです。

覚える量が、肩代わりの限界を超えた。それだけのことです。

ステップが、フローチャートを使う理由

ここからは、私たちが現場でやっていることです。

私たちは、動詞を教えるとき、暗記させません。フローチャートを1枚渡します。

be動詞の文か、一般動詞の文か。→ 主語は何か。→ 肯定文か、疑問文か、否定文か。

この順番に道をたどっていけば、必ず正しい形にたどり着けるようにしてあります。覚えるのではなく、たどる

理由は2つあります。

1つめ。規則を、頭の外に出してしまえるからです。

この子たちが苦手なのは、規則を頭の中で自動的に組み立てることでした。一方で、目の前にあるものを見て手順どおりに進むことは、十分にできます。だったら、頭の中でやらせるのをやめればいい。困難のある子への外国語指導では、直接的で、明示的で、段階を追った教え方が有効だと繰り返し報告されています。フローチャートは、それを1枚に凝縮したものです。

2つめ。そしてこちらのほうが大事なのですが、覚える項目が15個から2個に減るからです。

先ほど15パターンと書きました。けれどフローチャートを一度たどってみると、子どもが実際にやっているのは、

  • この文はどちらの動詞の文か
  • 主語は何か

この2回の判断だけです。あとは道が勝手に決まる。肯定文か疑問文かは問題文を見ればわかりますから、考える必要すらありません。

15個の項目を覚えるのが無理だったのは、量が多すぎたからです。であれば、量そのものを減らせばいい。15個の暗記を、2回の判断に置き換える。これがフローチャートの本当の仕事です。

覚える15個を、2回の判断に置き換える。丸暗記だと15パターン、フローチャートだと2回の判断で形が決まる図解

フローチャートが効かない場面

デメリットもあります。

リスニングや英会話のように、早さが求められる場面では通用しません。 道をたどるには、どうしても数秒かかるからです。フローチャートで越えられるのは、定期テストや問題集のように、時間があって落ち着いて考えられる「書く英語」まで。聞く・話すについては、別のアプローチが必要になります。

もうひとつ、いちばん難しいのは最初の分岐です。 「この文はbe動詞の文か、一般動詞の文か」——ここを間違えたら、そのあとの道すじがどれだけ正しくても、答えは外れます。しかもこの判断だけは、チャートの中に答えが書いてありません。だから私たちは、ここだけは別枠で、繰り返し確認する時間を取っています。

「動詞マスタークエスト」をつくりました

このフローチャートを、そのままアプリにしました。

  • 指導で実際に使っているフローチャートを画面に表示。問題ごとに該当する道すじだけが明るく光る
  • まずフローチャートを見ながら解く「サポート問題」
  • 次に、同じ形をひたすら繰り返す「特訓問題」200問
  • 特訓問題ではチャートは閉じた状態から始まり、迷ったときだけ開けられる
  • 間違えたときは、「動詞の種類・主語・文の種類」の順に、どこで道を外れたかを表示

いちばん難しい「どちらの動詞の文か」の見分け方も、独立したステップとして組み込んであります。

目指しているのは、チャートを開く回数が少しずつ減っていくことです。覚えてから使うのではなく、使っているうちに覚える。順番が逆なのです。

支援学級・通級・特別支援学校に通うお子さま、学校から長く離れているお子さまのために設計していますが、英語が苦手な中学生であれば、どのお子さまにも使っていただけます。

👉 動詞マスタークエスト くわしく見る


ここが通ると、その先が変わります。過去形も、現在完了も、受け身も、結局は「動詞の形をどう変えるか」の話だからです。動詞で止まっている子は、その先のすべてで止まります。逆に言えば、止まっている場所は1か所です。

お子さまの英語について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。

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参考にした研究

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